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名古屋高等裁判所 昭和57年(ネ)497号 判決 1983年2月22日

控訴人・附帯被控訴人(被告)

丸山木材工業株式会社

ほか一名

被控訴人・附帯控訴人(原告)

三浦正勝

ほか一名

主文

原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

本件附帯控訴を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴につき

(一)  控訴人ら

原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。

被控訴人らの請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決。

(二)  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

との判決。

2  附帯控訴につき

(一)  附帯控訴人ら

原判決中附帯控訴人ら敗訴部分を取り消す。

附帯被控訴人らは連帯して附帯控訴人ら各自に対してそれぞれ金三一四万一九二八円の支払いをせよ。

附帯控訴費用は附帯被控訴人らの負担とする。

との判決。

(二)  附帯被控訴人ら

本件附帯控訴を棄却する。

附帯控訴費用は附帯控訴人らの負担とする。

との判決。

二  当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書二枚目裏六行目中「地先」の下に「道路上」を加える。)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  被控訴人(附帯控訴人)ら

稔の逸失利益(原判決書三枚目表六行目から同裏三行目まで。)に関する主張を次のように改める。

現在日本の賃金体系においては、一八ないし一九歳の給与が、そのまま将来にわたり固定された額によるものではなく、年功に応じ賃金額が拡大されるものであるから、将来の逸失利益算定にあたつても、右により増額さるべき賃金額を算入すべきである。そして、賃金センサス昭和五五年第一巻第一表によると、昭和五五年における全産業の男子労働者の年齢別給与は別表1のとおりであり、亡稔も少なくとも同程度の収入が可能であり、したがつて一八歳から六七歳までの収入を年五分の割合による利息を控除して七歳当時の現価を算出すると別表2のとおりとなる。右の算出額から五割の生活費を控除すると、亡稔の逸失利益額は金三〇七〇万六七一四円となり、附帯控訴人らはこの二分の一宛を相続したので、これにより本件事故による損害賠償額を算出した内金請求として本訴請求をする。

2  控訴人(附帯被控訴人)ら

前記被控訴人(附帯控訴人)らの主張は争う。

理由

一  本訴請求原因及び過失相殺の抗弁に関する当裁判所の判断は、次につけ加えるほか、原判決理由説示のとおりであるから、ここに原判決の理由(原判決書六枚目表二行目から同八枚目裏四行目まで。)を引用する。

1  原判決書六枚目表八行目中「(国道二三号線)」を「(市道星崎白土線)」に、同七枚目裏八行目中「二三三万五八〇〇円」を「一四九万〇七〇〇円」に、同八枚目表二行目中「二一九一万五六四三円」を「一三九八万六四九二円」に改め、同行中「となる。」の下に「〔(116,400×12)+93,900〕×1/2×18.765=13,986,492)」を加え、同一〇行目中「本件交差点は」から同裏四行目中「すべきである。」までを、「稔は、本件事故当時小学校一年の健康な男子で、平素両親から道路を横断する際の一般的な注意のほか、横断歩道や横断歩道橋を渡るようにいわれており、他方、小学校等においてもこのことは教えられていたものと考えられ、交通の危険につき弁識があつたものと推定され、右によると被害者稔はその事理を弁識するに足る知能を具えていたものというべきであるから前示のとおり本件交差点には横断歩道橋が設置されているのに、稔はその直近の交差点西南角の歩道から東西道路を北に向けて横断しようとし控訴人出口が運転する加害車がその手前(東側)約二三メートルに達していたにもかかわらず、小走りで約二メートル車道に進入した直後本件事故に遭つたものであること、その他諸般の事情を斟酌すると、前記損害額より三割を減じた額をもつて控訴人ら(附帯被控訴人ら。以下「控訴人ら」という。)の賠償額とすべきである。」に改める。

2  被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という」は、幼児の将来の逸失利益を賃金センサスを基準に算出するにあたり就労年齢の給与額を固定して算出するのでなく、年功に応じた拡大された各年齢における賃金額をも考慮すべきである、と主張するけれども、就労年齢の遠い幼児の逸失利益の算定については、個別的事情に応じた将来の収入、生活費、稼働可能期間等の予測がきわめて困難で、そのような幼児について、前示の算出方法に加えてさらに不確定要素の多い被控訴人主張のような複雑精緻な推定や計算をしてみても、いたずらに擬制を重ねるだけでより正確性、合理性のある逸失利益に近づくものとはいうことはできないし、ことに本件において右の算定方法をとらなければならないような事情もみあたらないので、この点に関する被控訴人の主張は理由がない。

二  右の事実によると、被控訴人らの受くべき損害賠償額は各自金八五七万〇二七二円となるところ、被控訴人らが控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人」という。)田口が契約した自賠責保険から保険金として金一八二一万円の支払いを受けた事実は当事者間に争いがなく、被控訴人らは、これを半額あて右損害賠償金に充当したものと認められるから、被控訴人らは右の支払いにより控訴人らに対し本件交通事故による損害賠償請求権は存在しないこととなる。

三  したがつて、被控訴人らの控訴人らに対する本訴請求は理由がなくこれを失当として棄却すべきところ、原判決中控訴人らに対し金員の支払いを命じた部分は不当として取消しを免れず、これが取消しを求める控訴人らの控訴は理由があるけれども、被控訴人らのその余の請求を棄却した部分は相当であつて、これが取消し及び右棄却部分の金員の支払いを求める被控訴人の附帯控訴は理由がない。

よつて、原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消し、右取消しにかかる被控訴人らの請求並びに被控訴人の附帯控訴を棄却し、訴訟費用は第一、二審とも敗訴の当事者である被控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

(裁判官 舘忠彦 名越昭彦 木原幹郎)

別表1

<省略>

別表2

1500.7×{(12)-(10)}=1500.7×(9.21-7.94)≒1905.889

2047.5×{(17)-(12)}=2047.5×(12・00-9.21)≒5712.525

2742.4×{(22)-(17)}=2742.4×(14.58-12.00)≒7075.392

3377.8×{(27)-(22)}=3377.8×(16.80-14.58)≒7498.716

3916.8×{(32)-(27)}=3916.8×(18.80-16.80)≒7833.6

4180.7×{(37)-(32)}=4180.7×(20.62-18.80)≒7608.874

4249.5×{(42)-(37)}=4249.5×(22.29-20.62)≒7096.665

4143.5×{(47)-(42)}=4143.5×(23.83-22.29)≒6380.99

3445.3×{(52)-(47)}=3445.3×(25.26-23.83)≒4926.779

2658.2×{(57)-(52)}=2658.2×(26.59-25.26)≒3535.406

2419.2×{(60)-(57)}=2419.2×(27.35-26.59)≒1838.592

計 61413.428

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